ふること

多分、古典文学について語ります

光源氏が語る「理想の女」は「自分に素直に従い、思い通りになる女」

光源氏の女の趣味というと。
父のきさきである藤壺宮への道ならぬ恋から、藤壺の姪にあたり、面影が似ている若紫をさらってきて自分の思い通りに育てて妻にした…というあたりを中心に語られることが多いのですが。


そういう源氏くんの女の趣味について、「夕顔」の巻で、みずから夕顔の侍女である右近に語っている場面があります。


「はかなびたるこそはらうたけれ。かしこく人になびかぬ、いと心づきなきわざなり

はかなげで弱弱しいような女こそ、愛おしく思えるというものだ。賢くて自己主張が強く、人に従わないような女は嫌なものだ。

 

まずこれ。
「かしこく人になびかぬ」というあたり、明らかに、正妻の大殿の上(葵上)を意識してますね。
あいつ、賢くて気位高すぎて俺の言うこと聞かないから気に入らね~んだよ、と。
葵上だけではなく、六条御息所のこともでしょう。


年上で教養深くたしなみもあり、立派な貴婦人である正妻の葵上、六条御息所。この二人は、源氏としてはちょっとうっとうしくもあるんですな。

 

上に続けて、源氏はさらにこう言います。

 

「自らはかばかしくすくよかならぬ心ならひに、女はただやはらかに、とりはづして人に欺かれぬべきが、さすがにものづつみし、見む人の心には従はむなむ、あはれにて、我が心のままにとり直して見むに、なつかしくおぼゆべき」

私自身が、あまりてきぱきしてしっかりしているわけではない性癖なので、女は、ただ物柔らかで、うっかり男にだまされてしまいそうなぐらいではあるものの、そうはいっても控えめで慎み深く、恋人になった男の心には素直に従うような――そんな女が私は愛しく思えて、自分の心のままに教え直しながら共に過ごしていくのが好ましく思えるにちがいない。

 

・はかなげで弱弱しく、保護欲をそそられる。

・ものやわらか…つまるところ、おだやかで優しい性格。

・ともすると男にだまされてしまいそうなぐらい素直で信じやすい。

・控えめで引っ込み思案。自分からぐいぐい行かない。

・関係ができた男には、素直に従う。

…そういう女を、自分の思うように教えて矯正して共に暮らしたい。

 

とまあ、光源氏くん自身が語る「好みの女」はこんな感じだそうで。

ここでもう、「若紫」の巻で若紫を引っさらって「思い通りに育て」た挙句、強引に妻にする…という所業に及ぶ伏線が貼られているわけです。

 

源氏クン自身が意識し、語ってもいて、かつ実行してすらいる「理想の女」というのは、実は

 

素直で自分の言うことには従い、ひかえめで、自分の思うように仕立て上げられる女

 

だったりするわけなんです。

 

現に、源氏が妻として六条院に迎えた女たちはなべて、源氏には素直に従い、逆らったりしない女たちばかり。

そして、のちのち中年男になった源氏が、はるかに年下の女三宮を正妻にしている経緯からしても、実際に源氏自身の行動からしたら、源氏は常に「女を保護し、自分の思うように仕立て上げたい」という理想?通りに動いているわけで。

 

「紫の上が藤壺に似ているから」

女三宮藤壺の姪だから」

という理由はあるけれども、それにしても他の女たちのことを考えてみても、源氏が妻としているのはすべて「従う女」のみであり、六条・朝顔・朧月夜などは結局妻にはしていない。

女三宮を迎えて、幼すぎるのに飽き足らず思う一方で、素直で従順なのを「憎からず」思っていたりする。

 

どぉ~~~も源氏クンには、藤壺宮」という絶対的な女性の理想像がある一方で、「従う女が良い」という背反するような理想があるように思えます。

 

 

今まで、源氏物語を語るときに、光源氏のこういう側面ってあまり強調されていないような気がするのは気のせいかな。

…って、私も別にただの素人なんで、源氏物語に関する論文などあまり読んでいるわけじゃないから、誰が何言ってるかなんてあまり知らないわけなんですが…

 

読んだことがないんですが(そしてなぜか読む気になれないんですが)、大塚ひかりさんは、ここらへんのことについて書いていらっしゃいそうな予感がします。
読んでないんで分からないけど。