ふること

多分、古典文学について語ります

光源氏はロリコンではない。ただ病的にナルシストなだけだ。

中学生だか高校生だかぐらいのとき。

川原泉のマンガだったかな。古典の授業で「源氏物語」を学んだ主人公とその友人たちが、光源氏を「年端のいかない女の子を誘拐した挙句、今でいえば中学2年生の女の子を無理やり襲った犯罪者」みたいなレポートを書いてたとかなんとかいう話があったんですね。
それはマンガの中では「残念なレポート」みたいな位置づけで描かれていたんだけれども、私の周りでは(ちなみに女子校でした)

「そうだよね、光源氏って変態ロリコンの犯罪者だよね!」
「14歳相手に何やってんだ!」

「マザコンのくせに、変態ロリコンでもあるなんてとんでもない奴だ!」

という風に妙に盛り上がってしまっていまして(もしかしたら、自分たち自身が14歳ぐらいの頃だったのかも知れない)。
「残念な感想」ではなく「光源氏は変態犯罪者だという感想こそが正しいのだ」という、なんとも言えない空気が、友人たちの間で支配的になってしまったのでした。

 

いやーそんな中で「ロリコンじゃないと思う…」と何回かはか細い声?で反論を試みた気がする。

でも、歯牙にもかけられずに反論の声は排除されてしまったのでした。

 

それがトラウマになっていて、それ以降ずっとずっと言いたかったんですよ。

 

平安時代ごろだと、14歳は結婚適齢期なので!

適齢期になるまで手を出すの待っていたわけなので!

ロリコンっていうのは、幼い女の子そのものが好きで、手を出すヤツのことを言うんじゃないかなあああああ?

 

っていうか、ヤツがおかしいところは、そこじゃなくない?

そんなとこよりも、なんかしょっちゅう鏡見て自分の顔にうっとりしてるとこの方がおかしくない?

 

「須磨」の巻で、もうすぐ京を離れる時に、

「鏡台に寄りたまへるに、面痩せたまへる影の、我ながらいとあてきよらなれば」

つまり、「鏡を見たら、顔が少し痩せた様子が、我ながらとても気品があって美しいので」、紫の上に

「こよなうこそ、衰へにけれ。この影のやうにや痩せてはべる。あはれなるわざかな(ひどく衰えてしまったものだ。この影のように痩せてしまいました。哀れなものですね)」

って言ってるわけ。

内心では「俺様ってやっぱり気品もあってサイコーに美形!」って思っていながら、恋人には「こんなに容貌も衰えてしまった」なんて心にもないこと言って、いかにも「そんなことありません」って言ってほし気に誘い受けしてるわけですよ。

 

アホやん?

 

おまけにそのあと

「身はかくてさすらへぬとも君があたり さらぬ鏡の影は離れじ」(我が身は遠く都を離れてさすらうことになろうとも、あなたのそばにあるこの鏡に映った影はあなたのそばを離れずにいよう」

って和歌を詠みかけているんだけど、要するにアンタ

「この俺様のこんなに美しい面影が鏡に残っていつでも見られれば、あなたの心もさぞかし慰められるでしょうに」

って言いたいわけやんな?

やっぱり男は顔やな、とか思ってるだろ?

思ってるだろオマエ。

 

「末摘花」の巻でも「わが御影の鏡台にうつれるが、いときよらなるを見たまひて」とかあるしさ。

だいたいが「きよら」って最上級の美を表現する言葉だよ。
なんでそういっつもいっつも鏡見て、自分の顔にうっとりしてんのさ。

 

それにさ

紫の上は藤壺宮にそっくりなわけだけど、そもそも藤壺宮は光源氏の母の桐壷更衣に似ているから、光源氏とも面差しが似てるって、桐壷帝が言ってるしさ。

要するに、光源氏にとっては、紫の上って「この上なく素晴らしい俺様の面差しにも似ている美女」なわけだよね。

おまけにそういう、「自分の顔に似たところのある美女」を「自分の思い通りに育てた」わけだよね。
一体それ、どういう自己愛なん。

ナルシストにもほどがあるんじゃないの?

 

その自己愛とうぬぼれの挙句に、いい年してから「この俺様に見合う身分高い妻がいない」なんつーてごく若い女三宮を妻にして、痛い目みてるわけだし。

しょーもないやっちゃ。

 

でもまあ、女三宮14歳を妻にしたのって源氏クンが40歳前後になってからだから、それってどうなのっていうのはあるけど、女三宮に対しては「幼なすぎるのが飽き足らない」っていう感想だったよーなので、やはり源氏は女の幼さが好きではない。

ロリコンではない んですよ。

 

……

……まあロリコンじゃなきゃいいってもんでもないですけどね。

 

女三宮の様子を見て、幼さに飽き足らず思いつつ、なかなか優れた人というのもいないものだと思うにつけても「対の上の御ありさまぞなほありがたく」つまり紫の上はやはりなかなかいないぐらい素晴らしい人だ…と思いながら、光源氏くんが考えることは

 

「われながらも生ほしたてけり(我ながら、紫の上をうまく育てたものだ)」

 

と帰結してるんです。

紫の上はとても素晴らしい女性だけど、それは俺様が上手に育てたからだもんね!とこうです。

光源氏はいつもそう。他の人が褒められても「結局それって俺様が偉いんだもんね」って言いたがる。

なぜオマエはそう、何でもかんでも我ぼめ・うぬぼれに帰結するんだ。


ナルシストめ!!

 

…このあまりのナルシストっぷり。

何歳になっても自分アピールして自分を認めてもらいたがる。

自信満々なようでいて承認欲求強すぎっていうか、ほんとはアンタ自分に自信がなさすぎだから、そんなに褒めてもらいたがりなんじゃないの?って気もしてくる。

 

……そんな情けないとこが可愛いよね、光源氏くん。