ふること

多分、古典文学について語ります

うつほ物語(宇津保物語)の、おそろしい東宮妃たち

さて、ジャパンナレッジでだらだら古典文学を読んでいて、何度か挫折してた「うつほ物語」にチャレンジしています。

この「うつほ物語」、最初の「俊蔭」を読んで「ああこういう伝奇的な話なのね」と思ってると大間違い。
ひとつの物語なのに作風がバラバラ(変に日記みたいな記録みたいなことをずらずら連ねてたり、竹取物語みたいな求婚譚がダラダラ続いたり、突然政争話になったり)で面くらいますが、まあ冗長なところは飛ばし読みしつつ、面白いところを拾い読みしたり。

んで、途中後宮の争いの話とか、次期皇太子をめぐる政争の話が出てくるんですけど、ときどき頭に血が登った登場人物が、女性も メチャクチャ悪口雑言を言い放ったり、露骨な下ネタ言ったりするんですよ。

なんかすごいですよ。

ヒロインの一人である「あて宮」は東宮妃(東宮の即位後は女御)になるんですが、特にこの東宮の他のおきさきたちの嫉妬だの悪口だの夫婦喧嘩だのがものすごい。

うつほ物語は男性が書いたものだと言われてますが、まあこの容赦ない下ネタっぷりは男だろうなあ…としみじみ思います。

 

間男の子だろうとか、逆子で死んでしまえば良かったんだ、とか

たとえば…
ヒロインの「あて宮」が東宮の初めての皇子を産んだ時の話。
東宮の母后が、まだ子供のない他の妃たちもあやかれるようにと、「飲(す)き米」というもの(邪気を払うために米を水で飲み込む呪法があったとかで。縁起物のようなものですかね)をあて宮からもらって東宮妃たちに配ったのです。

すると、東宮妃のひとりで、あて宮の従姉にあたる大い殿の君は、もらった米を投げちらして

「誰か、その姪の食(は)み残しは欲しき。よろづの集め子を生みて、宮の御子といへば、まことかとてもて崇めたまふ」など、局の毀(こぼ)れぬばかり口説(くぜ)ちののしりて(あて宮)

誰が、姪の食べ残しなど欲しいものか。あのひとは、大勢の男たちの胤を集めて子を産んでおいて、東宮のお子だと言うので、本当かと思って崇めていなさるのだ」など、局が壊れそうになるほど悪口を言い騒いで

と大騒ぎして、米を突き返してしまいます。

いやはや、激しい。

あて宮にはもともと大勢の求婚者たちがいて、彼女が東宮に入内した時には、悲しんで恋死にしてしまった人もいたり、出家してしまった人だの遁世してしまった人だの(複数)たくさんいたんですね。
それを当てこすって、産まれた皇子は他の男の種だろうとののしっているわけです。

 

このひとは色々激しくて。
他にも「密か男」ているだの「盗人」だの言った挙げ句

逆子さへて死なずなりにけむこそ、陰陽師(おんやうじ)、巫(かうなぎ)、神、仏もなき世なめれ(国譲 中)/(お産の時に逆子になって死ななかったなんて、陰陽師も巫も神仏もない世だと思える

とまで言ってます。
つまり、あんな女、逆子がひっかかって難産で死んでしまえば良かったのに、と言い放つ。

この人、物語中でも「さがな者」という性格設定ではあるんですが…

嫉妬のあまり、ダンナの大事な所を引っかく内親王

東宮妃のひとり、内親王の身分を持つ「小宮」という妃も、なかなか激しい人だったようです。
大い殿の君のように悪口をひどく言ったりとかいうわけじゃないんですが、東宮があて宮を偏愛したために東宮と大喧嘩になったようで、それについて別の妃の梨壺は、異母兄の藤原仲忠に向かってこう語っています

 

この春、いみじき御いさかひありて、御衣引き破(や)られ、よろづのところかき損はれたまひて後は、参上(まうのぼ)らせたてまつりたまはざなり/この春、(東宮と小宮の間で)大変な喧嘩をなさいまして、東宮様は衣装を引き破られ、色んなところを引っかかれて傷をつけられてしまわれて、その後は(小宮を)お召申し上げなさらないようです

この小宮という方は、先帝の后腹の内親王内親王たる人が、夫の東宮と、服は破るわ、ひっかくわの大喧嘩をした、と…。

そしてこの話を聞いた仲忠は

やむごとなきところも引き破られたまひつらむ。さてはましていかならむ/大事なところも引っかかれて傷つけられなさったのだろう。だとしたら、ましてどうなることだろうか

 

小宮は、東宮大事なところを引っ掻いて傷つけちゃったんだろうな~、そりゃたまらんわ。的な推測をしています。

 

いや~ほんと激しいですね。

 

女が強い「うつほ物語」…

ちなみに、ヒロインのあて宮は、もっぱら夫に気に入らないことがあると、実家に帰って無視作戦です。
参内をやいやい促す手紙が来ても返事もしなくなるので、東宮は困って、あて宮が推挙した蔵人を謹慎させてみたり何だり、彼女から反応を引き出そうと必死。

どうもあて宮は、夫の東宮よりも、かつての自分の崇拝者である藤原仲忠の方が良い男だったような気がしてきて、仲忠の妻になった女一の宮を羨ましく思って拗ね返ってるフシがある。

なかなか厄介な女性です。

 

まああれだ、源氏以降の物語だと、「こいつどうしてくれよう」的な男だったり、男のせいで女達が不幸になっていたり…というパターンが目立つ気がするんですが…
うつほ物語は源氏物語以前の物語っていうのもあるのか?
男が書いたからか?

…ひたすら、女が強い。です。

 

女が書くと男が強くなって、男が書くと女が強くなるんですかね。謎だ。