ふること

多分、古典文学について語ります

うつほ物語の超下ネタ集

うつほ物語(宇津保物語)でびっくりしたのは、貴人や女性も下ネタを平気で口にすること。
全員が全員ぽんぽん言うわけでもないですが…

 

主人公仲忠の父、藤原兼雅は、除目で昇進できなかった時に、妻や子に文句たらたらいう中で、源正頼は娘の仁寿殿女御や東宮に入内した藤壺が寵愛を得ているから昇進できたのだとぶつくさ文句を言う中で、こんなことを言います。

いでやこの皇子(みこ)たちを思へば、宿世(すくせ)心憂く、いかなる(くぼ)つきたる女子(をんなご)持(も)たらむとぞ見ゆるや。また、今一つのありて、蜂巣(はちす)のごとく生み広ぐめり。天(あめ)の下の皇子(みこ)たちは、この窪どもに生み果てられたまふめり。この度も男子(をのこご)をこそ生まめ。この師走の月夜のやうなるわざしたんなる者は、女(め)の童のかしけたるをこそ生まめ。幸ひのなき者は、いかがはある」(蔵開 中)

はてさて、この(正頼のむすめの仁寿殿女御腹の)皇子たちのことを思うと、我が身の宿世が恨めしい。いったいどんな女陰がついたむすめを持っているのだろうと思えることだ。
またもう一つの女陰(藤壺を指す)で蜂の巣が広がるようにお子をたくさん生み広げることだろう。天下の皇子たちはみな、この正頼のむすめたちの女陰に生み尽くされてしまうだろう。今回も、男子を生むだろう。
この師走の月夜のように興ざめな妊娠をした者(兼雅のむすめの梨壺)は、みすぼらしい女の子を生むだろう。幸いのないものというのはそういうものだ。

「窪」「くぼみ」…まあそのものずばり「女陰」です。
女陰は「つび」とも言うらしいですが…

要するに、帝の女御として皇子女をたくさん生み、寵愛を独占している源正頼の長女仁寿殿女御のことや、東宮に入内して早くも皇子を二人生んでもう一人妊娠中の藤壺のことを、「いったいどんな女陰を持っていてあんなにばんばん皇子ばかり産めるんだ」とぶつくさ言っているわけです。

露骨ですね。

ちなみに兼雅は、高官たちの中ではほとんど唯一、正頼の娘や孫娘と結婚していないので、このような露骨な悪口?が言えるのです。
さて、その兼雅の文句に対して、兼雅の妻である北の方が答えた台詞がこんな感じ。

北の方「(中略)いとうたて、世の人のつきたるものも、けしからぬ者こそ、たはやすくいふなれ。御やうなる人は、殊にしもいはざなるものを。立ち返り、いとつばびらかにものたまへるかな」
おとど、「さて、そこはつきたまへりや」とて、引きまさぐりたまへば、「うたて、戯(たはむ)れたまへる」とて、うちむつかりて(蔵開 中)

北の方は、「(中略)ほんとうにおろかしいこと。世の人についているとかいうもののことも、下賤のものならばこそ簡単に口にするものでしょう。あなたのように身分の高い方が、格別に口に出したりしないものですのに。何度も何度も細かくはっきりとおっしゃったことですね」
大臣は「さて、あなたにはそれはついていらっしゃいますかね」と言って、北の方をいじくりまわしなさったので、北の方は「いやだわ、おふざけになって」と言って、ご機嫌斜めになり…

 

兼雅は、妻に「そんな下品なことを何度も何度もはっきりとおっしゃるなんて」とたしなめられますが、気にしちゃいません。
「あなたにもついてるかな」などと下ネタを言い募って妻の体を確かめようとするという、下品なオヤジっぷりを発揮

 

一方で、正頼の方も下ネタでは兼雅に負けてません。

左大臣源正頼は、藤原氏出身の東宮妃である梨壺に皇子が生まれ、東宮妃である自分の娘のあて宮(藤壺)が産んだ皇子が立太子できるかあやしげな情勢になってきたときに、別の東宮妃である小宮(先帝の皇女)も妊娠しているため、小宮にも皇子が生まれたら、先帝は強く小宮腹の皇子を東宮に推すだろうから、更に情勢が不利になる…という話を妻や娘(あて宮こと藤壺)や息子たちとしていた時に、こう言います。

「それは、天下に御まら七つ八つつきたまへる男、一度(たび)に三、四生(む)まれたまふとも、さかしらさしいらへせむとす」(宇津保物語・国譲中)

「それについては、天下に男根が七つも八つもついていらっしゃる男御子が一度に三~四人(小宮の腹から)生まれなさったとしても、(立太子問題については)私がさしでがましく口を出すことになろう」

きっぱりはっきり言い放ちます。むすめの前で。

なんですか興奮すると下ネタに走るんですかね、うつほ物語のお貴族さまたちは。

 

下ネタに走るのは男だけではありません。

この東宮問題をめぐっての話なのですが、時の帝の中宮藤原氏出身で、自分と同じ藤原氏である梨壺腹の皇子を、次の東宮にしたいと熱望しています。
その熱望ぶりの背後には、帝の寵愛を独占する仁寿殿女御への嫉妬もあり、自分の子である東宮の寵愛を、仁寿殿女御の妹である藤壺が独占していることも、あまり愉快には思っていない様子。
そして、姪であり藤原氏である梨壺が産んだ皇子を立坊させるため、梨壺の父右大臣(藤原兼雅)や梨壺の弟の藤原仲忠(うつほ物語主人公)、叔父にあたる太政大臣(藤原忠雅・正頼の婿)を協力させようとしたら、誰もかれも正頼のむすめや孫を妻にしている姻戚関係を気にして中宮に協力しようとしないので、怒り心頭になってこんなことを言います。

 

「などすべてこの女(め)の子どもはいかなるつびかつきたらむ。つきとつきぬるものはみな吸ひつきて、大いなることの妨げもしをり(同・国譲下)」

「なぜこの左大臣家の女子たちは皆、いったいどういう秘所がついているというのか。そこにひっついた男たちには皆吸い付いてしまって、大事を為すことを妨げるのだから」

 

「つび」というのもまた、女陰のことです。
それが男に吸い付くというんですから、フォローもしようがないぐらい下ネタです。露骨です。

また

「ふぐりつきて、男(をのこ)の端(はし)となりて、かうものをいはむよな。」(国譲下)
男の証がついていて、男の端くれでありながら、このようなものの言いようとは。

といって男たちを罵ったりもします。

 

いや~源氏物語のみやびさに馴れ、王朝古典文学というのは上品なものだと思ってたりしたら、このストレートな下ネタっぷりにはぶっとびますよね。
特に中宮の下ネタ大全開の罵りっぷりは、なんだか威勢が良くて好きです。
男たちの下ネタは、なんだかいじましい気がするんですけどね。