ふること

多分、古典文学について語ります

元朝秘史がとてつもなく腐女子的萌えコンテンツな話

元朝秘史というのはアレです、チンギス・カンの一代記で、井上靖の「蒼き狼」とかの元ネタの一つになってる古典です。
訳本がいくつかあるんですが、お勧めは岩波文庫元朝秘史」上下・小澤重男さん訳のもの。

他、東洋文庫「モンゴル秘史」(村上正二さん訳注)とかもあるんですが、訳文が詩的という意味では小澤さんのが好きだな~

訳自体が軽く古文ぽい文体の部分も多いので、古文が苦手だと取っつきづらいかも知れないんですが。


そもそも何で「元朝秘史」を読んだかというと…多分、シュトヘルを読んだからだったかな。
蒼き狼とかは子供の頃に読んだことあったんですが、元朝秘史を読んだのは初めてだった。

それで読んでみたらば、チンギス・カン~テムジンの幼馴染でジャムカという人物が出てきましてね、このひとは「蒼き狼」だとちっとも魅力を感じない人物になっちゃってるんですが、これがまあ元朝秘史」書いた人は腐女子だったんですかと言いたくなるぐらいの萌え系キャラで……

いや絶対そうですよ。書いた人の性別がどうだろうと、魂は腐女子だったに違いない。

 

井上靖腐女子の魂を持ってなかったんだな……(しみじみ)

 

ジャムカっていう人は、そもそもなんかしらんけどテムジンととても仲が良くて、仲が良いあまりに同衾しているという記載もあるんですが、一体これ何なんでしょうね同衾て。なんでそんな描写が唐突に出てくるのか不思議で仕方ありません。そういう習慣があったんでしょうか。(そういう習慣っていうか…まあどこまでイメージするかは妄想力によるのかも知れませんが)


二人は仲良しなんだけど、なんか仲違いして(仲違いするきっかけになった部分が、元朝秘史の中でも難読…というか解釈しづらい部分で、どういう意味なのかいろんな説があるようです)、敵同士で戦うようになった。

 

でも、敵に回っているのにジャムカさん、テムジンのことはいつも「盟友(アンダ)」と呼び、なんかこう…憎からず思ってる風の振る舞いを常にしていて、最後の場面も、なんつーかこう…

 

以下完全ネタバレになりますが(今更…)、今てもとにある岩波文庫元朝秘史」と東洋文庫「モンゴル秘史」を参考に、適当に場面をまとめてみます。

 

 

 

 

テムジンに戦で負け続け、少数の部下と山賊みたいなことをして流離うようになったジャムカは、最後は部下に裏切られてテムジンのところに突き出されてしまいます。しかしテムジンは、ジャムカを裏切った部下たちを、ジャムカの目の前で殺させます。(この時点で萌えゲージ上昇)

そしてテムジンは、ジャムカの命を助けようとして「共に生きよう」と熱く口説きます。

 

今や我ら二人はまた一緒になったのだ。遼友(ノコル/友)となろう
我々は一対のうち片方の車の轅(ながえ)になって過ごしていたのに、一人ぼっちに離れていたいとそなたは思ったのか

忘れてしまったことを共に想い出し、睡ってしまった想い出を共に蘇らせて過ごそうではないか

離れていた時でも、そなたは幸いも福もある私の友だった

まことに我々が死に向き合った日々にも、そなたは心を痛めていたではないか

別々に離れて行っても、我々が殺し合うとなると、そなたは胸を痛めていたではないか

 

といったことをテムジンはジャムカに韻文で呼びかけ、切々と訴えます。(萌えゲージ振り切れそう)なんかここ、直接話しているわけじゃなくて人づてなんですけどね。

それに対してジャムカは、

 

昔幼かった頃、我々は消化(こな)れない食べ物を喰い合って盟友の誓いをなし、忘れ得ぬ言葉を言い交わして同じ掛け布を分け合って共に寝た。
それなのに、よこしまな者たちにそそのかされ、傍の者たちに突き動かされて、私は盟友たるあなたから離れてしまった

本心からの言葉、忘れ得ぬ言葉を語り合い誓い合ったのに、それに背いた私はあなたに責められることをおそれ、親しいあなたを避け、寛容な心を持つあなたの真実の顔を見ることができなくなってしまった。

今、我が汗(カン/王)たる盟友(アンダ)は、私を赦して僚友(とも)になろうと言うが、私はあなたの僚友(とも)たるべき時に僚友(とも)であろうとしなかった。

今、あなたが民を従え、外国を併せ、汗の位を天が示され、天下が治まった時になってあなたの僚友となったとて、あなたに何の助けになるというのか。

むしろ私は、盟友の黒き夜の夢に現れ、明るき昼の心を悩ますことになるだろう。

私はあなたの襟の虱、裾の棘となるであろう。

 

そういってテムジンの「友となろう」という申し出を拒否し、更に、「自分を早くあの世に逝かせてくれれば、あなたの心も休まるだろう」といって、血を流さずに殺してくれるよう頼みます。(もう萌えゲージ限界達しています。もだえ死ぬ。ここでも同衾とか言ってるよ何なんだよ)

その上、ジャムカは

 

死んで横たわったら、我が遺骨は高き地にて、永遠にあなたの子々孫々に至るまで加護しよう


などと言い、最後には

私が語った言葉を忘れず、朝な夕なに想い出して語り合ってくれ

さあ、早く私を殺せ

 

とテムジンに言ってやります。(もう萌えゲージ限界突破して鼻血吹いた)

そうだね、自分のことを忘れて欲しくないんだねジャムカたん。

 

そうしてジャムカに助命を拒否され、テムジンは仕方なく、彼の言葉通りにジャムカを処刑し、葬ってやったという…

 

いや「集史」(元朝秘史より、もうちっと歴史書として信憑性の高い史料)でジャムカが処刑される場面はこんな萌え系じゃないし、この場面はどうも創作っぽいんですけどね。

 

いいじゃん創作でも。

元朝秘史の作者は腐女子だったんだよ。

 

 

 

そういうわけで、どなたか絵師の方、ぜひ薄い本つくって下さいお願いします。