ふること

多分、古典文学について語ります

「有明の月」中世王朝物語・男女逆転ヒロインの覗き趣味とは一体

Twitterで呟いたり何だりしてたことなんですが。
有名な男女逆転物語である「とりかへばや」物語を、最近ようやくまともに読み直してみたら、意外なほど面白かった…というのをきっかけに、古典文学から現代に至るまで、日本文化で一ジャンルとして確立している観のある「男装の麗人」ものについて、ジェンダー論?的にも気になるところではあったため、「とりかへばや」リスペクトで書かれたという「有明の月」というマイナーな中世物語を読んでみたのです。

おおよそ、とりかへばやと狭衣物語源氏物語を混ぜて、好みのものだけ抽出したような感じの話で。

 

【「有明の月」あらすじ】

左大臣家に男子の跡継ぎがいなかったために男として育てられたヒロインは、容姿も素晴らしく各種才能も優れており、笛を演奏すると神様が降りてきて連れていかれそうになってしまうほど。

左大臣は、娘を男子として育てつつ、妹の姫君も存在すると世間には話しているが、実はそれは架空の姫君…というか、本当は架空なのは若君の方なんですが、ともあれ、いつか娘が女性に戻る時のために、若君には妹の姫君がいる、ということにしておいたのです。

男として出仕し、順調に出世もしているヒロインには、隠れ蓑を着たように姿を隠すことのできる能力がありました。
その能力を使って出歩き、あちこち覗いて歩くのがヒロインの趣味でした。
ワタクシ真面目口調で語ってますが、ホントにそうなんです。
 
ヒロインは、他人の情事を覗き歩いているうちに、いろんな男性の不実な姿を見て、男にだまされたり、辛い目に合わされたりしている女達を助けようとします。
中でも、叔父の家に忍び込んで覗き見した時に、叔父の後妻の連れ子である姫君(父は皇族)が、叔父に無理やり迫られ、脅されて関係を持たされてしまっているのに同情し、妊娠してしまった彼女を盗み出して自分の屋敷につれていって、妻にします。
そして、月満ちて男子が生まれると、その子は自分の子として体裁を整え、父が待ち望んでいた家の跡継ぎとします。
その後、自分自身が帝に男装がバレてしまい、関係を持たされてしまったことをきっかけに、男としての自分は病気で死んだことにして、女に戻り、入内して皇子を産み、中宮になります。(ちなみに帝は、彼女がもと男装していたことを知っています)
なお、女に戻って入内した頃には、隠れ蓑の能力はなくなってしまい、趣味の覗き見はできなくなったそうな。

ヒロインは女に戻って女として栄華を極めたけれど、いつまでも男として振る舞っていた頃の自分を懐かしんでいます。
そしてヒロインが男だった頃の子として育てられた若君が、成長後、叔母ということになっているヒロインへの叶わぬ恋を抱きつつ色々恋愛遍歴を繰り返す話が続きます。

 

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だいたいこーゆー話なんですが。
いや最初読んだ時はぶっとびましたね。

だって の ぞ き ですよ、のぞき。
しかも他人の情事ばっか覗いてるんですよ。わざわざ近寄って会話盗み聞きしたりとかもね。

 
最初は何これギャグなのとか思ったんですが、そのうちハッとしました。
要するにこれってアレですね、王朝物語の定番である「物陰からのかいま見」に対するアンチテーゼというか。

王朝物語の女達は、いっつも男から勝手にのぞき見られ、勝手に見初められて勝手に忍び込まれて関係持たされたりしているわけですから、そういう「定番パターン」への逆襲みたいな…


ヒロインが女に戻っても、それでめでたしめでたしとはならずいつまでも男姿の自分を懐かしく思っているあたりからしても、「有明の月」は、ジェンダーに対する批判っぽい要素が大きく感じられます。
でも、逆にそれに物語が引っ張り回されてる観もあるんだな~……

 

だってやっぱりね、自分の叔父さんが、継娘に無理やり迫っていたしてる場面を、ひたすらそばで盗み見てるだとかね…シュールというか……。
ってか、見てないで止めてやれよ。

 

…とは言っても、中世にここまでジェンダー的なものを意識した作品が描かれていることは、ある意味すごいことだなと思います。
ここらへんを連続的に追いかけてる論文とかありそうなものなんだけど、どうなんだろう。わたしゃ学者じゃないので詳しくないんですが。

ジェンダーに縛られて苦労する女達、なんて図は、現代でもあまり変わっていませんし、日本の伝統的男女観って一体どういうものなんだろうっていう気がしたりします。